全国学力・学習状況調査 理科の得点状況について
文部科学省の全国学力・学習状況調査は、昨年度は震災の影響で一斉実施が行われませんでしたが、今年は2年ぶりに小6・中3を対象に実施されました。今回の特色は国語・算数数学だけでなく、初めて理科が実施されたことです。以前に比べて、県ごとのランキングなどでの盛り上がりは小さくなりましたが、新規実施の理科について簡単に紹介します。
1. 小6の出題と結果
・出題設問数24題、正答率61.1%、国語や算数数学と違ってAB分けはない。
・知識問題7題 正答率69.2%、活用問題17題 正答率57.8%
・領域別 物質7題 正答率61.7%、エネルギー5題 正答率60.0%、生命7題 正答率68.7%、地球5題 正答率50.8%
・問題形式別 選択式15題 正答率65.2%、短答式6題 正答率64.1%、記述式3題 正答率34.7%
・高正答率 方位磁針の名称89.8%(理科で最高)、学習した植物の成長の規則性を,他の対象であるサクラに適用できる88.4%、物は形が変わっても重さは変わらない85.9%
・低正答率 天気の様子と気温の変化の関係についてデータを基に分析して、その理由を記述する17.1%(理科で最低)、方位磁針の適切な操作方法を身に付けている27.6%、植物の受粉と結実の関係を調べる実験について,結果を基に方法を改善して,その理由を記述できる32.3%
正答率が最低だった天気の様子と気温の変化の関係の問題は↓ のような問題でした。
(3)ではかげの長さをデータ化しています。
それを踏まえたうえでの(5) の問題。この問題が正答率が低かった問題です。
(5)の答えは 4です。正答例としては「午前10時から正午前まではくもっていたので気温はあまり変わらないが,それ以外の時間は晴れていたので気温は上がるから。」となっています。
文科省では「各問題の分析結果と課題」のなかで、「学校行事などと関連させて,天気の変化について興味・関心をもち、気温の変化について調べるように指導することが大切」としています。
2. 中3の出題と結果
・出題設問数26題、正答率52.1%、国語や算数数学と違ってAB分けはない。
・知識問題10題 正答率57.3%、活用問題16題 正答率48.9%
・領域別 物理8題 正答率47.1%、化学6題 正答率58.5%、生物6題 正答率51.9%、地学6題 正答率52.8%
・問題形式別 選択式12題 正答率61.3%、短答式9題 正答率50.5%、記述式5題 正答率33.2%
・高正答率 地層のつながりや成り立ちを調べるために、断層の有無や地層に含まれている粒に着目するという地層観察の技能に関する知識問題87.3%(理科で最高)、電力に関する知識を活用して、LED電球の省エネの効果を考える84.8%、「石灰岩(石灰石)にうすい塩酸をかけると二酸化炭素が発生する」という石灰岩の見分け方に関する技能を身に付けている74.4%
・低正答率 豆電球と発光ダイオードを用いた電流回路をつくる実験の方法を検討し改善して、科学的な根拠を基に正しい実験方法を説明する設問7.8%(理科で最低)、地層などの知識を活用し,過去の火山活動が活発だった時期の回数についての他者の考察を検討し,根拠を示して改善した考察を説明することができる11.3%電力量を理解している11.5%
豆電球と発光ダイオードを用いた電流回路をつくる実験は↓ のような問題です。
(1)の正答は218mA です。 正答率は45.4%でした。
次の(2)が、正答率7.8%の問題です。
正答例は、「豆電球と発行ダイオードに (例) 『同じ電圧を加えるために、(それらを)並列につないで』 測定すればよいと思います。」 となっています。
「各問題の分析結果と課題」には、「抵抗の直列つなぎ、並列つなぎなどに関する知識を活用して、他者の実験方法を検討し改善して、正しい実験方法を説明することが求められる。…根拠を示して、正しい実験方法を説明することに課題が残る。」としています。
3. 課題点として指摘されること
全体的に観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明する問題の正答率が低く、課題として指摘される。また、小6では科学的な言葉や概念を使用して考えたり説明したりすること、中3では実験の計画や考察などを検討し改善したことを、科学的な根拠を基に説明することや実生活のある場面において、理科に関する基礎的・基本的な知識や技能を活用することが不十分である。
4. 生活習慣や学習環境等に関するアンケートの調査結果
・理科の勉強が好きな小学生・中学生の割合は国語、算数・数学に比べて高いが、「理科の勉強は大切」「理科の授業で学習したことは将来社会に出たときに役に立つ」と回答した小学生・中学生の割合は国語、算数・数学に比べて低い。
・「理科の授業の内容はよく分かる」と回答した小学生と中学生の割合の差が国語、算数・数学と比べて大きい。
・上記の理科の関心・意欲・態度に関する質問については、いずれも肯定的に回答した小学生・中学生の方が、理科の平均正答率が高い傾向が見られる。(中学生の方が小学生よりも傾向が強く見られる)
・理科の観察・実験に関する質問について、「観察や実験を行うことが好き」「自分の予想をもとに観察や実験の計画を立てている」「観察や実験の結果から、どのようなことが分かったのか振り返って考える等」と回答した小学生・中学生の方が、理科の平均正答率が高い傾向が見られる。(中学生の方が小学生よりも傾向が強く見られる)
5. 上位5県は
小6の正答数上位5県は①秋田、②福井、③石川、④青森、⑤富山であり、富山県以外は国語A・Bの各上位5県に入っている。また、算数A・Bの上位5県にはこの5県がすべて含まれる。中3の正答数上位5県は①福井、②富山、③石川・秋田、⑤山形・群馬(同じ値あり)であり、このうち石川以外は国語A、群馬以外は国語B、山形と群馬以外は数学A・Bのそれぞれ上位5県に含まれる。外れた県も上位に位置している。
6. 課題
さて、課題点として指摘されていることは「PISA」以降、何かと指摘されてきた点で、この全国調査でも以前からほぼ同じ指摘がなされてきたことです。理科は今年から加わりましたが、課題点は同じだ、というわけです。
また、正答数上位5県(いわゆるランキング)の面では、国語や算数・数学の上位県と理科の上位県がほぼ同じですから、上位については科目の違いによる差異もあまりないと考えられます。要は、国語ができるなら算数も理科も、ということです。
生活習慣や学習環境等に関するアンケートの調査結果では理科の関心・意欲・態度が肯定的であれば正答率が高い、観察・実験に前向きに取り組んでいれば正答率が高いという、当然の傾向が出ていますが、「理科の授業の内容はよく分かる」が中学生になると国語や算数・数学よりも大きく落ち込むこと、「理科の勉強は大切」「理科の授業で学習したことは将来社会に出たときに役に立つ」と回答した小6・中3が国語や算数・数学に比べて低いことは注目されます。特に「将来社会に出たときに役に立つ」の低さは理系離れにつながるものでしょう。