埼玉県公立高校入試を振り返って:1

埼玉県公立高校入試を振り返って

埼玉県公立高校入試は今年から前後期一本化となりましたが、このほど入試が終了しました。

前後期を一本化しましたので、転編入枠以外がすべて募集枠となっていて、全日制の募集枠は総計40,081名です。昨年の前期は31,646名でしたので、全体の募集定員増はありますが、大雑把に言って、普通科の後期の定員枠がなくなった分募集枠が増えています。

埼玉県の新制度は志願変更が2回可能というユニークなものでしたが、昨年の前期の最終志願者数は45,738名、今年は2回変更後の確定志願者数は46,158名でした。昨年も公立高校希望の受験生のほとんどは前期に出願していましたので、今年の中3生が昨年より増えた分、志願者数も増えたと考えられます。

志願倍率は昨年の前期が平均で1.45倍でしたが、募集枠が増えた分緩和し、平均で1.15倍でした。実受験者数は昨年が45,412名でしたが、今年は46,057名(いずれも受験段階、埼玉県では例年合格発表時点での実受験者数は若干ずれます)で、事前取り消しと当日欠席は昨年の326名から今年は101名と減少しました。特に事前取り消しは、昨年までその多くが浦和高校、浦和第一女子などのトップレベル校や2番手校で、東京の国立高校や難関私立高校の併願受験生でしたが、これが大きく減少しました。

1回受験になって日程が後送りとなったため(今年の日程は昨年の後期とほぼ同様)、東京の国立高校や難関私立高校の合格者はそもそも出願しなくなったのでしょう。それでも事前取り消し者数トップは浦和の5名で、難関校の繰上合格が決まったからではないかと思われます。合格者数は40,156名と、募集定員よりやや多くなっています。

昨年は前後期募集だった普通科の、特に中堅校を中心に、募集定員通りの合格発表を行う学校が目立っていて、専門系等の前期のみ募集校が少しずつ募集定員より多めに発表していましたが、今年は一本化のため、普通科中堅校でも数名程度募集定員より多く発表している学校が増えています。
定員割れによる欠員補充は昨年が136名でしたが、今年は361名と大きく増加しています。普通科の場合、前期に不合格だった受験生が、やむなくあまり本意ではない学校を後期に受験することで、最終の定員割れを縮小するメカニズムが働いていたのが、2回の志願変更があっても今年からは働きにくくなったこと、専門系等の、昨年まで前期しか募集を行わなかった学校も、前期で定員割れを起こした場合、後期で募集が行われていましたが、それがなくなったことで、やはり受験生が分散しにくくなったことが欠員補充増加の理由でしょう。

定時制は昨年も前期よりも後期の定員枠が大きく、全日制の前期不合格者の最後の受け入れ先としての機能を果たしていました。昨年は前期枠781名、確定志願者1,070名、合格者727名、後期枠1,363名、確定志願者1,232名、合格者1,123名だったのが、転編入枠を除く定員枠2,084名、確定志願者数1,568名、合格者1,545名でした。相変わらず全日制感覚で通学できる羽生や戸田翔陽などの昼間部定時制は高倍率、夜間定時制は定員割れが多く見られました。

志願者数トップ10比較

上の表は普通科と総合・専門学科に分けた志願者数のトップ10を昨年の前期と比較したものです。総合・専門学科等には昼間部定時制を含めました。

まず普通科では規模が大きい分、今年も伊奈学園がトップですが、人数は昨年の前期よりかなり減っています。人気校ですので、前後期制のときには「あわよくば」といった気持ちで出願していた受験生が一本化で慎重になったのでしょう。この伊奈学園から7位の蕨までの各校は昨年の前期もトップ10に登場しています。

また、今年トップ10に入った与野、越ヶ谷、春日部も人気校で、また昨年トップ10に入っていて今年は入っていない各校も、トップ10から外れたとは言え上位に位置していますから、全体的には人気校固定化傾向と言えますが、その中で特に注目は昨年2位の浦和が今年は14位となったことでしょう。同校は一昨年前期志願者数680名で3位、昨年が表のように2位、今年は志願者数が470名で14位でした。

一昨年から昨年の減少は、隔年的な志願状況の変化と、一昨年の入試変更(前期で学力検査実施など)での同校の難化が避けられたことが理由と思われますが、今年の減少は上記の伊奈学園のような「前期は『あわよくば』で出願の受験生がいなくなった」といった、一本化に伴う減少の他に、前述のように都内国立高や難関私立高校の合格者が併願しなくなったことが大きい理由でしょう。その分事前取り消しや欠席は減りましたが。浦和一女もトップ10は守ったとはいえ、かなり志願者が減少しています。同校も一昨年・前期は志願者が715名でしたから、この2年間で200名以上志願者が減ったことになります。浦和のようにトップ10から下がらずに済んだのは浦和よりは都内国立高や難関私立高校との併願を予定していた受験生の割合が少ないからでしょう。

ところで、順位の面からは川越と川越女子の上昇が目立ちます。今年は募集定員が増えたこともあって、浦和や浦和一女に自信はないが、やはりトップレベル校にと、川越や川越女子を希望した受験生はある程度いたのでは、と思われます。春日部の上昇も同じでしょう。ですが、志望調査から出願、志願変更1・2回と、志願者数の推移を見ると、12月以降の土壇場になって浦和や浦和一女から川越や川越女子に変更したケースはあまり多くはなかったようです。前後期一本化を前提に、確実に旧学区トップ校を狙っていこう、という動きが中心だったようです。

総合・専門学科やコース制等は募集定員が小さい学科・コースが多いため、どうしても志願者数では登場校かぜ固定化します。今年も志願者数トップは市立川口総合で、今年10位の浦和商業以外はすべて昨年のトップ10登場校、志願者数も普通科のような大きな変化はありません。人気校は昨年とほぼ同じ動向でした。


志願倍率トップ10は

今度は最終志願倍率を昨年の前期と比較します。

まず普通科は定員枠が増えた分、倍率の水準は低下しています。その結果、トップが市立浦和であることは変わらないものの、大宮、浦和一女、川越、蕨の計5校が昨年に続くトップ10入りと、志願者数の表よりはトップ10を守った学校数が減っています。

ただ、昨年トップ10に入らなかった越ヶ谷、浦和南、浦和西、川越女子、吉川のうち、浦和南と川越女子は一昨年はトップ10に入っていて、越ヶ谷や浦和西も人気がある学校ですから、総じて人気校は固定化傾向です。そのような中で注目されるのは吉川がトップ10に入ったことです。普通科の場合、トップレベル校や上位校、やさしめでもでも「中の上」レベル以上の各校でトップ10が占められますが、失礼ながら同校は上位校ではありません。入りやすい学校です。一時は昼間部定時制への改編を前提に募集停止が予定された学校です。昨年も比較的高倍率ではあったので、全体の倍率水準が下がったからトップ10に入ったと言えますが、地域をあげての存続活動が実を結んだのでしょう。また、従来駅からかなり遠かったのが、3月のJRのダイヤ改正から学校近くに新駅が開業し、通学が便利になることもプラスの要因でしょう。

 総合学科、専門学科、コース制等は、多くの学校が昨年までの制度でも前期のみ募集だったので、倍率水準は普通科と違ってあまり変わっていません。ただ、もともと少定員が多く、ちょっとした志願者の増減で順位が大きく変わります。

トップは今年も大宮・理数です。前後期一本化で定員が増えたために倍率水準は下がっていますが、人気は磐石です。松山・理数、越谷北・理数も昨年同様トップ10入りです。昨年は熊谷西・理数もトップ10に入っていて、普通科系専門学科では外国語系よりも理数人気の高さが目立ちましたが、今年は蕨、和光国際の外国語がトップ10に入り、人気が上向いているようです。専門系では志願者の増減での順位変動が大きいのですが、「今年はこれらの各校の人気があった」といった結果でしょう。

昼間部定時制はトップ10入りしていませんが、前後期一本化で倍率水準がかなり下がったことが理由です。学校の性格を考えると、昨年の方が高すぎたのかもしれません。